2015/02/22

グローカル:普遍と個への問い

留学への助成金を出して頂いていた機関へ報告書を提出した。
結構何を考えてきたか、学んできたのかを書いたので、ブログで共有しようと思う。

修士課程の2年間はクラスと実習が主であり、最後のまとめとして自分の研究テーマである程度の長さの論文を書いた。プロフェッショナルディグリーとして、むしろ職能のある人材を育てることが主なコースだったため、学術に偏ることなく実践もさせてもらい、とてもバランスよくどちらも学ばせていただいた。

都市・地域計画の理論・実践および実例(ケーススタディ)を通し、世界から地域単位における社会・経済活動と地域の人々の暮らしとの結びつきを包括的に学ぶことができた。また、具体的な事業に対する論理的な評価手法や、政策提言の方法についても習得した。

研究テーマは「沖縄型グローカル産業の試案」である。漠然としたテーマだが、「グローカル」とはなにか、ハワイではどのようにこのコンセプトと繋がるような都市計画やまちづくりがあるのか。その重要な点とは何かについてを学ぶ上で、常にこれは沖縄の文脈だとどうなるか、何をするべきか、ということを常に考えていた。沖縄の細かいケースについては今後むしろ実践で取り組む課題としたいが、最後に「沖縄21世紀ビジョン」のレビューをすることで、ビジョン作成の経験から学ぶような締めくくりとした。

さて、テーマにしていた「グローカル」という言葉について触れておきたい。一般には世界の普遍化(グローバリゼーション)と共に起きる地域化(ローカリゼーション)を組み合わせたもので、これらが同時に起こることを表したものである。一見止めようのない現象のようであるが、都市計画及び地域運営、経済発展の中でどのようにこの現象と付き合うか、いかに上手くこの現象と付き合っていけるのか、という疑問へのヒントを得られたことがこの2年間の大きな成果であろう。

この2年間を通して緊(ひし)と感じたことは、日本のまちづくりでよく言われる三要素、「若者、馬鹿者、よそ者」は、けして最適でないということである。ハワイのように文化や土地性を大切にする場所では、先人や年を召した知恵者(Kupunaと呼ばれ大変尊敬される)に学び、すべての世代が協力する。知恵や知識を大切にし、よく考慮した上で行動する。自身や地域の文化や土地の関わりを慎重に考え、この先この土地で自身や家族、そして子孫に何を残し、いかに生きたいのかを考える、といったプロセスのほうが重視される。ここで、地域のローカル性、独自性は正当性を持ち、かつ地域住民に無理のない形で維持される。

もちろん若い世代や行動力ある者、新しいアイデアを持ち込む者も大切であるが、前者の三要素に任せていてはその地域の独自性が迷子になってしまう可能性があるのだ。こちらの勢力はむしろグローバル的と言っていいかもしれない。例えば、情報通信技術を日常で使ったり、新しい世界的な文化に慣れ親しんだ若者や、もちろん地域外、海外からの視点、評価、経験談、方法論などである。こちらも地域が時代についていくためには必然的な要素だ。この現象は望まずとも進み、地域は自らを更新していかなければならない。しかしここで重要な事は、知恵を持った地域の人間が現在のグローバル的な価値観を検討し、その中でも地域の未来に必要な普遍的な価値を選びとることだ。

つまり言いたいのは、都市計画やまちづくりを「若者、馬鹿者、よそ者」に頼るな。グローバルで普遍的なものと、地域の価値を見出し判断する、賢く、経験から学べ、協働の方法を知るものと、協働のシステムこそが必要なのだ。ということである。(もちろんこの三者も重要であり、排除せよとは言っていない。)


例えば観光産業と文化との関わりである。訪問客はその土地でしか見られない独自性を楽しみにわざわざ足をのばす。そこに世界的水準では確かに品質のよいリゾートホテル郡やテーマパークがあったとしても、そこにその施設がある理由はなく、土地の魅力は伝わらない。そして、地域の人々にとっての伝統的な土地利用などを学ぶ機会も失われてしまう。これは地域住民にとっては文化の喪失でもある。選び取られた文化だけが残り、それが客に見せるだけの文化になってしまっても意味が無い。地域住民はその文化の所有者ではなくなり、客も生きていない文化を見る理由はなくなる。この例で行くと、むしろ地域住民の生活の中に文化が溶け込み、彼らが無理なく日常生活を営み、それに誇りをもっていることが文化に対する価値を挙げる。そもそも文化とは人々が所有するものであるからだ。そして、環境面ではバリアフリーや安全性、衛生面、交通利便性の充実などの普遍的な品質を上げることのほうが大切ではないだろうか。これらの品質向上の益者となるのは、訪問客だけではなく、地域全体である。

都市計画においては、地域と共同し彼らの生活を向上、維持しつつ、教育・訓練を受けたプロフェッショナルとして、新しい手法や技術を紹介し実現していくことが、グローカルのあり方である。ハワイでは、デザインと同じくらいプロセスの正当性が重視される。結果様々な葛藤も起こるが、計画を強行することはなく、葛藤に真摯に対応する。土地は一度手を入れてしまうと二度と元には戻らない。土地を変えると地域や人の暮らしが変わる。なにか行動を起こしてしまう前に、できるだけ可能なだけ未来を試行錯誤することが大事なのである。そのためにはプロフェッショナルとしての紛争解決能力、交渉力、市民参加の手法、議論を進める能力が不可欠である。もちろんこれらは都市計画以外にもさまざまな分野で必要な能力でもある。

最終研究主題とした「沖縄21世紀ビジョン」においては、住民協働の努力は見られた反面、ある程度方向付けが初期からされており、ビジョンとしてはスローガン的になれない程度だが十分具体的ではないという中途半端な形になっていた印象である。しかしこれは未来を考える議論を地域で巻き起こす良いきっかけである。この取組を参考とし、沖縄においては教育制度、市民社会や参加意識など、アメリカやハワイと比べまだ弱い点が多いことは課題であるが、できれば都市計画者を中心に、や地域をよく知る者と協働して、各市町村あるいはもっと小さい単位で地域の未来を作っていく習慣を築いていきたい。その際にグローバルとローカルのバランスを取り、よく考え協働するという姿勢と視点の転換を沖縄の未来への提案としたい。